(61)2000.12.20

$ メール $

 恋をするにはもう遅すぎる年齢だわ。

 そんなことを考えながら優子は外に写る町の風景をぼんやりと眺
めていた。
 彼女は決して不細工ではなく頭の悪い女ではなかったのだが婚期
を逃し続けて今年35になる。
 考えてみれば頭が良すぎたのが裏目にでたのだろうか、それとも
たまたま回りにいた男どもが馬鹿ばっかりだったのだろうか。
 いや、単に勢いが足りなかっただけなのかもしれない。
 結婚とパソコンは勢いだ。
「でもパソコンなら得意なのに」
 優子は寂しそうに再びオフィスのディスプレイに向き直った。
 気晴らしに自分宛てのメールが来ていないかチェックしてみる。
 わんさか来ている。
 うっかりハンドルネームに YUKO という女性名と分かるものをつ
けてしまったものだから全世界から馬鹿な男どものメールが殺到す
る始末。これも優子の婚期を遅らせている原因になっていると言え
る。
「あ〜あ、もううんざり」
 目を通すまでも無くすべて速ゴミ箱行きだ。

 一方同オフィス内、人気ナンバーワンやり手営業マンの山岡清四
郎。
 その気になれば女性には全く不自由しない男だ。
「よう、どうだい。うまくいったかい」
 と同僚の柳。
「だめだ。いくらメールを出しても見向きもしてくれないんだ」
「そこがまたイイって言うんだろ。分かんないなあ」
「あああ〜。憧れの優子さん〜」



(62)2000.12.21

$ 男も女も $

「ああ、こんなならあの時のあの女の方が良かったのに……」

 男というものはどうしても過去の事にこだわってしまう。
 へんに年だけとってくると妙なプライドが付いてしまってなかな
か新しい女を選べなくなってくるのだ。実際の自分の現状をわきま
えもせずに。
 ここにもそんなあわれな男の1人がいた。
 かつてはサッカー部で活躍し、何人もの女を通り過ぎてきた男な
のだが、今は余計なぜい肉もついて立派なオヤジと化してしまった。
 それでも中途半端にモテた経験があるものだから言う事だけは一
前人以上だ。
 あの女は性格が悪い、あの女は喋り方が気に食わない、などと文
句ばかり言っている。

 いや、まったく男というものはどうしようもない生き物だ。

 しかし、そんな男でもそろそろ落ち着かなくてはいけないか等と
思うようになって、最後には地味でさほど美人ではない女を捕まえ
て結婚を申し込んだ。

「そうね。もうお互い年ですものね。いいわ、結婚しましょう。
 あ〜あ、こんなならあの時のあの人の方が良かったわ」

 いや、まったく……



(63)2000.12.22

$ 大きな愛 $

「ついに出来た。人類の夢と希望の惚れ薬が」

「やりましたね先生」

「もうよりどりみどりふかみどりじゃ〜」

「僕にも少し分けて下さいね」

「これで世界中の美少年はみんなわしのものじゃ〜」

「……ちょっと待ておっさん」



(64)2000.12.23

$ 体より中身 $

「ほ〜んと体だけが目当てだったのよ。あいつ」
「男ったらみんなヤることしか頭に無いのよ」
「結局女なら誰でもいいのよ。1人の人間として見てないのよ」
「個性をみろっての。ねえ」
「ゆみ子。あんたも気をつけなよ」
「うううん。私の今の彼はそんなことないわ。
 ほら私ってこんなに太ってるしそんなに可愛くもないでしょう。
 もともとは趣味で知り合った仲だし、付き合いだした今でもとこ
とん話し合える仲間って関係で、ちゃんと私の性格とか個性を好い
てくれてるの。
 でなきゃもっと他に綺麗な女の子と付き合ってるはずだわ。
 だから女の体目当てなんて感じじゃ全然ないの」
「ふ〜ん」

 その彼氏はゆみ子の予想通り、本当に体より中身で彼女を選ぶ数
少ない男の1人だった。
 しかし、自分の彼女に女性的魅力が無い分、性欲は他で処理して
いる風俗&ナンパ大王だということをゆみ子はまだ知らない。



(65)2000.12.24

$ 夢 $

 うだつの上がらない貧しい手品師がいた。
 今夜はクリスマスイブだがおいしい料理を食べに行くこともでき
ず、ケーキを買う事も出来ず、恋人と2人で部屋の中。
 本当はもっとたくさん稼いでちゃんと結婚式を挙げて親の面倒も
みてみんな安心させてやりたいのだが、そんな世間では当たり前と
されていることが彼にとっては夢のまた夢であった。

「はぁぁぁ、夢を売るのが商売の手品師がこれじゃあなぁ」

「でも今日ばかりは貴方も一流のマジシャンね」

「えっ、な、なんの手品だよぅ。冗談はよせよぅ」

「クリスマスイブの魔力よ。今夜のあなたはとても魅力的だわ」

「むぐぐぐぐ」

 2人は2人だけの夜を過ごした。

 無論この魔力とやらは女が男を元気付けようとして口から出た
でまかせである。
 しかし、このでまかせの魔力のおかげで男は夢を失うことなく
手品師の道を進み、後に成功することになるのだが、今宵は未だ
知る由も無い。



(66)2000.12.25

$ 初めて $

 悪魔が闇の中から溶け出してきた。
 この家の者を惨殺するのが今日の仕事だ。
 ん、どうやら獲物を見つけたようだ。
 まずはベッドで眠っている少女からだ。
 悪魔は体中を腐食させる毒の爪を突き刺すために腕をふりあげた。
 とその時、背後から掴みかかってくるものがいた。
 同時に眩いばかりの明かりが部屋の中を照らす。
 よく見るとベッドの中で横たわっているのは人形だ。

「ひ〜かっかった♪ひ〜っかっかった♪サ〜ンタさんめ〜っけ♪」
「な、なんだと。」
「ね、あなたサンタさんでしょ。私ず〜っと待ってたんだから」
「いや、ち」

 ちがうんだと言おうとしたがこの女の子は悪魔の言う事などまっ
たく聴こうとしない。

「今日はねぇ。毎年サンタさんが私にプレゼントをくれるからぁ、
 今年は私からサンタさんにプレゼントをあげるの」
「な、な」

 なにを言ってるんだと言おうとしたが間髪入れずに女の子は手編
みのマフラーだかボロギレだかよく分からない毛糸のかたまりを悪
魔の首および顔にぐるぐる巻きつけだした。

「×△○□!!!」

 悪魔はすっかり拍子抜けしてしまい。
 とりあえずメリークリスマスと女の子にお礼を言ってその場を去
ってしまった。
 去るときに窓から空を飛んで見せたのは悪魔なりのせめてものサ
ービスだったのだろうか。

「おやびん!どうでしたか。首尾は上々でしだでげしょ」

 使い魔が主の傍に飛びよってきた。

「いや、今日はやはりイカン。キリストの魔力のせいでどうも体の
 調子が良くないのだ」
「そのわりにはおやびん。なんだかニコニコしてますぜ。暖かそう
 な雑巾なんか首に巻いて」
「ええい。だまれ」

 じつのところは生まれて初めてプレゼントを貰ったので嬉しかっ
たのだとさ。



(67)2000.12.26

$ 硬派 $

 俺は女嫌いなんだ。

 あらそう、私たち女も地球上で一人残らずあなたの事が嫌いなの。

 ……



(68)2000.12.27

$ 3角関係 $

「ごめんなさい。私やっぱりA君の方がいいの。彼の方が格好イイ
し、スポーツ万能だし、頭も良いし。本当にごめんね」

 ふられた。
 かねてより3角関係が続いていたのだが、この勝負は始めから俺
の方が分が悪い気がしたんだ。ったく、ちくしょ〜。

 しかし俺はそれをバネにして我ながら涙ぐましい努力をした。
 1年後、成績もスポーツも、見栄えだってガラっと変わった。
 人間頑張ればなんとかなるもんだ。
 そして新しい恋。

 この恋の展開もまた3角関係の様相を見せているのだが今度ばか
りは俺が勝ち組だ。ふはは。

「ごめんなさい。なんだかB君頼りなくて、私がついてないとダメ
なの。あなたなら他にきっといい人が見つかると思うわ」

 なんでやねん。



(69)2000.12.28

$ いい人 $

「いい人なんだけど」

 いい人の何が悪いんだ。

「恋人って言うよりお友達よねぇ」

 お友達はもうたくさんいます。

「でも旦那さんにはいいかも」

 おっ。

「30ぐらいまで遊びまくった後の保険として」

 こっちがおことわりです。

「あ〜あ、他にイイ男いないかしら」

 いい人ではいけませんか。

「というかストーカーしてるあなたはいい人ではありません」

 バレましたか。



(70)2000.12.30

$ 生命共同体 $

 愛してるとか綺麗だねとか口に出して何度も言わなければならな
い。
 服や髪型は無論、音楽や芸能人の好みまで誉めなければならない。
 とにかくケチらずにお金を使わねばならない。
 美味い食事とワインとケーキをどんどん与えなければならない。
 適度なジョークを言って笑わせなければいけない。
 喋りすぎる男はダメらしいがマメな電話はしなければいけない。
 事あるごとに花やアクセサリーなどを与えなければならない。
 夜の技を磨かなければならない。
 既に優遇措置対象から外れていることも分からずに勘違いしたま
ま暴君のように振舞う化け物ども。
 女とはそういうものなのだ。

 そしてその女がいなければ何一つ出来ない。
 男とはそういうものなのだ。




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