(31)2000.11.8

$ 里帰り $

「ひひひ」
 男は下品な笑みを浮かべながら少女を追い詰めた。
 ここは精神病院の特別病煉。
 この建物は完全に外界から遮断されている。
 休日の真夜中、病院のスタッフが帰った後は患者以外では住み込
みで働いているこの宿直の男だけになる。医師免許は無い。
 彼はこの病煉に送られて来る若い女性をしばしば犯す。
 言う事を聴かない患者には暴行を加える。
 薬も使う。死んでしまっても病気のせいにする。
 今までに4人ここで死んだ。
 それでももちろん治療費と称された費用はとる。
 何も知らない親族はお世話になりましたと感謝さえする。
 そして、
 今夜もまた1人の少女が餌食になるところだ。
「ひひひ、今日はお盆だからなあ、みぃんな里帰りして俺とお前の
2人きりだぁあぁあぁあぁあぁあ」

 盆があけて宿直の男が変死体で発見された。
 首を絞められて死んでいたのだが、病煉内にはこの男以外に患者
が1人しかいなかったのに首を絞めた手の跡は
 4人分。



(32)2000.11.8

$ 神も仏も $

「信ずる者は騙される。だ。」
 これが修次の座右の銘であった。
 修次は今までの人生の人間関係においてロクな経験がなかった。
 運が悪いと言うか要領が悪いと言うか、とにかく万事何事におい
て全てが裏目裏目に出続ける日々を送ったのだった。
 そして、そういう確固たる実績の下に修次は人を信じるという事
を止めるようになった。そして神や仏やその他もろもろの倫理的概
念の象徴であるかの様な「ナニか」をこよなく憎んだ。

 そんな修次がある日重い病にかかった。
 治療には同じタイプの骨髄が必要なのだかその提供者が見つかる
可能性は恐ろしく低確率だ。
 これも地球上の人間たちにお互いをいたわり慈しむ気持ちが無い
事の証拠だと修次は思った。
 修次は死に瀕しながらも自説の正しさが確証された事にやるせな
い満足感を覚えていた。そして少し寂しそうな笑みを浮かべていた。

 が、しかし、
 なんと運良く骨髄の提供者が見つかった。
 さっそく手術が始められた。
 修次は痲酔で意識が薄れ行く中、自分を取り巻く医師達の姿がこ
の病院の中で全く見覚えの無い者達に入れ代わっている事に気付いた。
 よく見ると頭の上にうっすらと白く光る輪っかが見える。皆この
世のものとは思えない微笑を浮かべている。

〃ああ、そうか最後の最後に神様が俺に救いの手を、、、、〃

 と修次は心のなかで感謝した。
 そして主治医らしき者がこう告げた。

「おまえの様なバチ当たりに分けてやる骨髄などないわ。我々は天
罰としてこの手術を失敗に終わらせる為にやって来たのだ」



(33)2000.11.8

$ デジタル画像 $

 安価で恵まれたパソコン環境が手に入るようになり素人でも綺麗
な合成写真を作れるようになった。
 それで、
 もともとオカルト好きな私はいつしか合成で心霊写真を作るのが
新しい趣味になった。友人達の間でもなかなか好評だった。
 しかし、
 最近だんだんとシャレにならない事態が起こり出した。
 デジカメから取り込んだ画像に本物の霊が写り始めたのだ。
 取り込んだ時に既に写っている時もあるし、ノーマルの画像でち
ょっと目を離した隙に霊が浮き上がってる時もあるし、いったんフ
ァイルを閉じてもう1度開いたときに写っていることもある。
 それでも私は友人達の間やホームページ上で発表し続けた。

 ある晩、1人自室でパソコンの電源をいれた時だった。
 ただならぬ異様な気配が部屋中に満ちた。
 霊感などこれっぽっちも無い私が1瞬でそれとわかる濃縮された
霊気であった。反射的に振り向くと、
 おびただしい数の幽霊が部屋の中に立っていた。
 私は恐怖で体が凍り付いて身動きできなくなった。
 呼吸をするのも忘れさせられた。
 そして、
 幽霊の1人が前に出て私に顔を近づけうらめしそうに囁いた。

〃なにっ〃

 そ、そんな事を私に言われても、、、、
 そういえばデジカメの写真に写っているのは若い幽霊が多くてこ
こにいるのは年寄りの幽霊が多いな。

「最近はあの世でもパソコンを扱えないと苦しくてのー
 うーらーめーしーいー」



(34)2000.11.22

$ 愛する貴方の全てが欲しい $

「あ、愛なんだ。おまえの事が好きなんだ。な、いいだろ」
「い、嫌よ。ダメだわ」
「し、しょうが無いじゃないか。こんなに愛してるんだ」
「あ、ダメ」
「お、俺はおまえのことをぉぉぉぉぉおおおおお」
「う、うぐぇ」

 赤いものがシーツに滲んだ。

「ご馳走様でした。」

 あと、喰い散らかした肉塊と骨も。



(35)2000.11.22

$ オフ怪 $

〃これが初めはちょっと戸惑うけど、慣れると止められないんだ。〃

 メールが来た。
 食べ物の話の1つも出来るようになればそろそろ友達と呼べるの
ではないだろうか。

〃そんなに美味いものなら今度俺にも食わせてくれよ。〃

〃分かった。○○月××日に家に来な。〃

 住所まで教えてもらった。意外と近かった。
 そして約束の日になった。
 彼はとある下宿に1人で住んでいた。

 トントン 「もしも〜し」

 鍵はかかってなかったので開けて見た。
 そこにはバカッと開いた口と目と鼻と耳と腹からおびただしい量
の虫を吐き出させて死んでいるネット友達がいた。

 む、虫を喰っていたのか。

 私はもはや無用となった部屋を出ようと背を向けた。その時。

「おう、来たか。丁度良かった。とても1人じゃ喰いきれないんだ」

 背後から声が、



(36)2000.11.27

$ 大きなお世話 $

 今日は友人数人と有名な心霊スポットであるトンネルにやって来た。

「だいたいパターンって決まってるよな」
「白い女の人が立ってるとか」
「どこまで行っても出口がないとか」
「知らない間に一人消えてるとか、お、これは今のとリンクしてる
な」
「だいたいどこのトンネルものでも似たような話が多いいじゃない?
結局人間ってのは死んでからもみんな似たような事しか思いつかな
いのかなぁ。」
「ギャハハハハハハハハ」×友達数人。

 と、その時、腹の底から響く大音響がトンネルじゅうに鳴り響いた。
 それは人の声でこう怒鳴っていた。

「やかましいわっ!ほっとけ!こっちも苦労しとんじゃ!」

 怒られた。別の意味で恐かった。



(37)2000.11.27

$ 大きなお世話2 $

 数日後、あの若者達は原因不明の変死を遂げた。
 今ごろは各地のトンネルに派遣され身をもって幽霊の苦労という
ものを思い知らされているのだろう。



(38)2000.11.28

$ 大鬼 $

 ドン!ドン!ドン!ガン!ガン!ガン!

 薄い木の扉が大きくたわんで変形する。
 しかしギリギリのところで何とか持ちこたえている。
 夏だというのに冷たい汗が後を絶たない。
 恋人同士の佐藤と玲子はズタズタに聞き裂かれてアツアツぶりは
見る影もなくなり、無謀にも立ち向かって行った伊藤と健二と仁科
は手足と首をもがれてバラバラにされ、逃げ送れた真治と奈那子と
直子と亜樹は次々と撲殺され踏み潰され折り曲げられて絶命した。

 ……

「これを持っていて下さい」

 私たちはとあるお寺に避暑に来ていた。
 知り合いのつてで紹介してもらったのだがこれがまた安い。
 そしてお寺に着いて最初に子坊さんから変わった物を貰った。

「おふだ、ですか?」

 それは白い紙に朱色の字で何やら書かれている短冊だった。
 話によると夜に時々鬼が出るから、もし夜中に妙な足音で目が覚
めたらこれを戸に貼ってほしいとの事だった。

「くれぐれも夜おそくに山の中を出歩かないで下さいね」

 と言われたところでみんなは信用せず、あははと笑いとばした。
 それがこんな惨劇を巻き起こす事になるとは。
 夜に裏山の方で花火をしようという事になってみんな出て行って
しまった。
 私は少し離れたお寺の側でみんなの様子を見ていた。
 その時である。

 本当に鬼が現れたのだ。

 ……

 私だけがなんとか境内に逃げ込み慌ててお札を貼り付けて生き延
びることができたのだ。
 少なくとも今この現時点では、だ。
 鬼はそれが忌々しいのだろう。狂ったように吼え扉を叩き続ける。
 私は恐ろしくて恐ろしくて布団にくるまって部屋の奥で小さくな
った。そうするしかなかった。
 夏だというのに冷気が押し寄せてきて凍えそうなのだ。
 そのうち死んだはずの友人達の声まで混じってきた。

「あーけーろーあーけーろー」
「こーろーすーこーろーすー」

 私はついに恐怖のあまり気を失った。

 どれくらい時間が経ったのだろう。私は暑くなって目が覚めた。

 もう扉を叩く音はやんで隙間からは光が差し込んでいる。

「た、助かったったんだ」

 私はホッと胸を撫で下ろしお札を剥がして扉を開けて外の空気を
吸った。
 しかし、外の景色をみて愕然とした。
 すぐ外に在る林が裏山の方まで赤々と燃え盛りまるで昼間の様に
明るく敷地内を照らしていた。
 扉の隙間から差し込んでいたのは朝日では無く山火事による炎の
明かりだったのだ。
 当然の事ながら
 気色の悪い笑みを浮かべた大きな鬼が私を待ち構えていた。



(39)2000.11.29

$ 医食同源 $

「なんだこれは」

 私は一人ツーリングで小さな村に行き着いた。
 山間にある小さな村でバイクでなければ入り込めないような細く
曲がりくねった山道を通ってやって来た。
 そこは通常なら心が和むような少し淋しい心持になる人気の少な
いのどかな風景な筈だったのだが、たった1箇所異物が混じってい
た。
 それは収穫の終わった田んぼにある数体のカカシだ。
 いや、始めはカカシかと思っていたのだが近づいてみると、
 串刺しにされた人間の死体だった。
 それは死んでから日が経っているようで、腐っていると言うより
は干物のように干からびている感じだ。
 染めた髪とピアスや体つきからして今風の都会の若者の様だった
が今は見る影も無い。

 なんの冗談なんだと後ずさりしようとしたすぐ私の背後に、いつ
の間に現れたのだろうか数人の村人が立っていた。
 そしてその中で最も年老いた老人が私に話し掛けてきた。

「この村には昔から体に不具合があった場合家畜の同じ部位を食べ
る古い慣わしがありましてのう。
 肝臓が悪ければ牛の肝臓、目が悪ければ豚の目玉、頭が悪ければ
羊の脳みそ、といった具合に患部と同じものを食べれば治ると信じ
られておるのですじゃ」

 私に向けられていた村人達の目が狂気をおびた。



(40)2000.11.30

$ 深夜のバス停 $

「あたたた」

 最終バスに間に合わなかったか。
 時計はギリギリ制限時間を過ぎていた。
 しかし、
 バス停には先に出発した悪友たちがまだバスを待っていた。
 まったくあいつらときたら、、、、

 実は今夜、皆で集まって肝試しをしていたのだ。
 しかし肝試しというのは口実で、実はお互いお目当ての男女と交
流を謀る合コンの様なものだった。
 そして僕は引き立て役に呼ばれた。
 いつもそうだ。彼らは何かと僕の事を引き合いに出して自分達の
優位性を強調するダシとして利用する。
 そもそも今日だって男のほうが1人多かったじゃないか。
 しかも、だ。
 彼、彼女らは途中でふざけて石碑を倒してしまう始末。
 結局それも僕が1人で直す結果となってしまった。
 本当に、いつも僕には損な役ばかりまわってくる。

 などと、心の中でボヤいているうちにバスがやって来た。

 僕らは順にバスに乗り込んだ。
 するとすかさず1人の男が私の前に割り込んできた。
 そういえば目立たなかったが先ほどから同じバス停にいた男だ。
 もしかしたらこの男は無神経な僕の悪友らに順番を抜かされたの
かもしれない。いやきっとそうなのだろう。

「すみません」

 なぜか割り込まれた僕の方が謝ってしまった。なんだかなぁ。
 結局、悪友たち、男、僕、の順でバスに乗り込む形になった。
 そして最後の僕が入り口に足をかけたその時、
 男が振り返りざま、

「あなたは良い人だ」

 そうつぶやくと物凄い力で私を外に向かって突き飛ばした。
 何が起こったのか、何でそんな事をするのか、尻餅をついて目を
パチクリさせているその隙に、バスは僕を置き去りにして発進して
しまった。

「な、なんなんだよ〜」

 ちくしょう、と言おうとして唖然となった。
 突如道路に巨大な穴が開き嫌な音をたててバスを丸ごと飲み込ん
でしまったのだ。
 あっという間の出来事だった。

 そのしばらく後に、普通のバスがやって来た。




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