(201)2003.1.29

$ 正義の味方の生活事情 $

 ひょんなことから正義の力を手に入れてしまった主人公は日夜
ヒーローに変身して悪の怪人と戦う生活を強いられてしまった。
 主人公が命がけで戦った見返りは、関わった少数の人たちに多
少感謝されるだけである。
 しかも匿名で、そしてすぐに忘れられる。
 また、怪人退治をしくじろうものならけちょんけちょんにたた
かれたりもする。
 もちろん誰からも残業代などは出ない。
 自分は自分で生活もしないといけないから普通に働きもする。
 しかし、いつ戦いの為に仕事を休まなければならないか分から
ない状態ではなかなか就職先も決まらない。
 もっぱら日雇いの仕事ばかりで生活は苦しい。
 税金も払わなければいけないし、健康保険や医療費も馬鹿にな
らない。退職金もなければ厚生年金も支給されない。
 まったくもって割に合わない境遇である。

「怪人め、正義の怒りを思い知れ!!! 必殺ビーム!!!!」

 実は、上記のような不満や憤りがその正義の怒りとビームに込
められていようとは、怪人も思い知る由は無い。


(202)2003.2.1

$ 正義の敵 $

 先日、連続殺人犯が捕まった。
 人は彼のことを凶悪な殺人鬼だと言う。
 しかし、彼は自分のことを正義の味方だと言う。
 嘘発見器にかけてみたところ、彼は嘘を言っていないという結
果が出た。
 直ちに彼は非公開で死刑された。


(203)2003.2.2

$ 正義の特権 $

 人を殺したいと思っても罰せられない。
 人の代わりに動物を殺しても罰せられない。
 惨殺死体の写真をコレクションしても罰せられない。
 犯罪を思い描いても罰せられない。
 殺人目的を持っていても罰せられない。
 残酷な計画を立てていても罰せられない。
 死体の山を思い描いても罰せられない。
 凶器を忍ばせたり机の中に保管していも罰せられない。
 ボーダーラインは自分以外の誰かが認識したり何らかの結果が出
ることだ。
 だから逆に、上記のような悪意が無くても、結果として出てしま
えば罰せられてしまう。
 ある特別な人物を除いては。

 などと言っていた猟奇マニアの四郎が自殺した。
 遺書にはこう書かれてあった。

「こんどは正義の味方になって生まれ変わってきます」

 199X年、経絡秘孔を突くことによって人間を内側から破壊す
る必殺の暗殺拳を伝承した若者が世紀末救世主として現れた。
 勿論、誰もがその残虐性には目をつぶった。
 なにせ彼は正義の味方だから。


(204)2003.3.18

$ 弱きを助け $

「弱きを助け強きを挫く」というけれども、
 この行為は、単純に力がある無しや大小のバランスを調整する為
に行うのではなく、力の使途や利用者の人格を問い正す為に行使す
るとしよう。
 そうなると話はややこしい。なぜならば常に弱きが正しい者とは
限らないからだ。
 例えば、弱者が弱者であることを強要させられているその直面し
た現場では不条理な出来事として受け止められたとしても、その弱
者もまた、何らかのきっかけで強い力を手に入れたならば、たちま
ち誤った使い方をする者である可能性が圧倒的に多いからだ。
 大体の強者と弱者において、その差はただの力の有る無しだけで
あって、その人格面での内容は等しく悪人であることがほとんどな
のだ。
 だから、正義のヒーローは短絡的に弱い者を助けるべき存在とい
うわけではないのである。

 ヒーローAの頭の中ではいつも師匠のその言葉が繰り返し彼を戒
め続けていた。
 しかし、Aはそれが理屈では分かっていても心ではどうしても受
け入れられなかった。
 心のやさしいAは、例えば目の前で殺されようとしている者を見
殺しにするようなことは絶対に出来ないのだ。

「僕は自分の心を信じよう」

 それからAはしゃにむに走った。
 世界は広い。片時も休むことなく戦った。弱い者を助けた。悪を
滅ぼした。
 そして、最後には力尽きて死んでしまった。
 が、その意思は引き継がれ、第2、第3のヒーローAが現れ、世
界じゅうにその正義の力は広まっていった。
 その結果、
 弱肉強食のルールが破壊され食物連鎖のバランスが崩壊した地球
上の主な生物は全て死滅してしまった。


(205)2003.3.18

$ 強気を挫く $

 正義のヒーローは勇気が有るというけれど実はそうでもない。
 悪に立ち向かうのは特殊な能力による後ろ盾が有るが故の話であ
る。何らかの強い力によって他者を押さえつけているという点では
悪人どもと同じである。
「弱きを助け強きを挫く」と言うけれど、挫いている者と挫かれて
いる者の間では、強い者(=正義の味方)が弱い者(=悪人)を挫
いているという形式が成立している。
 だから、力が有るとは言えても勇気が有るなどとは言えない。
 しかも時には多人数で1人の怪人をやっつけたりもするのでむし
ろ卑怯者ですらある。

「と言う訳で、だいたい正義の味方などと名乗るやつは自分勝手な
 奴が多いんだ」

「ああ、それでアメリカではヒーローものの漫画が多いのか」


(206)2003.9.14

$ ヒーローの仕事 $

「変身!」
 変身装置のスイッチを入れヒーローに変身した。
 目の前の敵を倒し、襲われていた人々を済う。
 彼はそんな戦いの日々を送っていた。
 決して楽ではない生活だが、別に苦にはして無かった。

「こんな腐った人間社会の為に戦うと言うのか」
 時々こんなことを言って手を組まないかと言う怪人もいた。
 しかし、ヒーローは悪の誘いにのることなく、ひたすら戦った。

「な、なぜだ、なぜそこまで人間たちを信用できるんだ」
「信じることがヒーローの仕事なんでな」
「仕事だと?」
「結構いい給料もらってるんだよ」
「……」


(207)2003.9.18

$ 悪の権化 $

ヒーローは悪の怪人どもに叫んだ。

「なぜだ!なぜ人間たちを襲うんだ!」 

怪人どもは答えた。

森林怪人:「俺たちの仲間を焼き払ったからさ」
鳥獣怪人:「数多の種を絶滅させられたからさ」
化石怪人:「湯水のように無駄使いされた怨念のためさ」
海底怪人:「無秩序に汚染されて綺麗な海を奪われたからさ」
大気怪人:「オゾン層を壊すからさ」
神仏怪人:「悪いことしてるのに無責任な神頼みばかりだからさ」
悪魔怪人:「なんでも悪いことは俺たちのせいにするからさ」

「すみませんでした」


(208)2003.9.21

$ 今どきのヒーロー $

 ヒーローはとにかく強い。その強さの種類はざっと思い付くだけ
でも以下のようなものがある。

 体質変化型:本人の身体そのものが強化されたもの。
 パワードスーツ型:上記に近いがアイテムの力により強化される。
 機械型:機械を利用したもの。または機械化されたもの。
 超能力型:通常の肉体に付加パワーがついたもの。
 魔力型:上記と同じだかエネルギーソースは神や悪魔などの他者。
 召還型:自分以外のものに戦わせるもの。

 むろん、これらの複合型もある。それはそれとして、
 ここに列挙した例の中では、近年に近付くほど下の方、つまり体
質変化型から魔力型、召還型のヒーローが増えつつある。
 過去は主流であった「自分の肉体をもって戦う肉弾戦」よりも、
近ごろは「何かに間接的に戦ってもらう」の方が好まれるのだ。
 これは、しっかりと運転操作感や手ごたえのあるミッションから
自動的にクラッチを切り替えてくれるオートマ車に移行していった
風潮に似ている。
 つまり、ようはこちらの方が便利なのだ。
 過酷な訓練も、ダメージを受けるリスクも肉弾戦よりは少ない。
 それでいて自分の身一つで戦っている怪人よりも強い。
 なんか、そんなのはズルくて卑怯ではないのか。
 なあ、どう思う?そこんところ。

 と言う様な主張を、声を大にして叫んでいたのだが、またしても
怪人の口からは「ガオ〜」としか言えなかったので、ヒーローにサ
クッと倒されてしまった。
 いや、正確に言うと、今どきのヒーローだったので、その契約モ
ンスターに倒されたのだった。
 ヒーロー自身はナメたハナたれ小僧だった。


(209)2003.11.26

$ 正義の戦い $

「なんで俺をこんな体にしたんだ!」

 その時から俺の戦いは始まった。
 悪の組織で改造人間にされてしまった俺は、新しく身についた特
種能力を使って組織を抜け、さらにその組織に復讐を誓った。
 その復讐劇には一般人をも巻き込み、何の関係もない第3者にも
多大なる被害を持たらしもした。
 しかし、悪の組織と戦う俺の姿を見て、ある者は俺のことを正義
の味方と呼んだりもしたが、それは大きな勘違いで、本当に俺個人
の都合でだけ戦っていた。
 だが、そんな孤独な戦いの日々を続けているうちに、俺の中にあ
る新しい感情が芽生えてきた。
 正義の味方という自覚が芽生えてきたのだ。

「おぼえてろ〜。この次はこうはいかないからな」
「何度来ても同じことだ。正義は必ず勝つ!」

 そして、いつのころからか、敵に対して、最後のとどめをささず
に逃がしてやったり、あと一歩のところでわざとチャンスを逃して
やったりするようになった。
 だって、いつまでも正義の味方という名目で暴れたり、良い格好
したりしたいんだもん。


(210)2004.2.15

$ 最高の強敵 $

 長い長い戦いの末、ついに決着がついた。
 今まさに、ヒーローが悪のヒーローにとどめをささんとするとこ
ろだ。
 しかし、ヒーローは身動きの取れなくなった敵を前に最後の必殺
技の構えをとったまま動かない。
 そこで交わされたヒーローと悪のヒーローの会話。

「なぜとどめを刺さない」
「お前の技には殺気がなかったからだ」
「なんだと」
「お前の目は悲しい目をしている」
「ふっ、そこまで見抜いていたというのか」

 その後、悪のヒーローがやむをえない理由でヒーローと戦い続け
ていた事、しかし実は人間らしい心とか愛とか等を捨てきれずにい
た事、本当に悲しい思いをしていたのは悪のヒーロー自身だったの
だというような事、などを、2人は語り合った。

「というわけで俺様の完敗だ。情けは無用。さあ、逃げも隠れもし
 ない。とどめをさしてくれ」
「いや、お前も漢(おとこ)だ。強敵(とも)だ。これからは力を
 合わせて共に戦おうじゃないか」
「お、お前ってやつは」
「これからは仲間だぜ」
「くっ」(涙)
「さあ」(握手)
「俺様の足手まといになるんじゃねーぞ」
「あははははははは」×2。

 などというやり取りがあり2人は仲間同士になった。
 ちなみに、理由はどうあれこの悪のヒーローが惨殺した何の罪も
ない一般市民の数は約1000万人で、それが全てチャラ。




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